(21)ルアーをやる方へ

筆者は数年前、くちばしから舌がだらんと垂れ下がっているアオサギを数回の釣行の際見かけたことがあった。あれはおそらくルアーが絡んだ事故ではなかろうか。

 

また2023年3月半ば、いつものようにグレ狙いでのこと。二人の若者が、「やっぱり餌でないと」(ダメかな)みたいなことを話しながら、「何が釣れますか」と話しかけてきて、グレですよと答えると「釣れましたか」、「足裏が1枚」みたいな会話があってから、彼等も離れたところでビュンビュン始めたようだった。

 

しばらくすると、「うわー、鳥が咥えた!?」、「あんなデカいの引き寄せられないよね」、「糸切ってもかわいそうだよね」、「おじさん、どうしよう」とこちらに声が向けられた。

堤防の反対側の騒ぎを見てもいない内から、もはやグレ釣りへの集中は切れていた。

その鳥(かねてから堤防の周り一帯を一羽でドボンドボンとダイブしていて、あれはおそらくウミ鵜だと思われる)は、絶対に助けなくてはならない、と意を決し、「おう、絶対糸を切らずに手繰り寄せなさい。」(糸が切れて自由になったところでルアーをぶら下げて生きるなんて)「かわいそうすぎるから」、などと言いながら急ぎタモをセット。すぐそばで遠投カゴ釣りしていたご老人は終始無言のままタモを差し出そうともせず自分の釣りを続行していらっしゃる。状況からすれば、ウミ鵜を助けることはまずできないと踏むのが正解なのだろう。

ウミ鵜は何度も海中に潜って逃げようとする。手繰り寄せられ近くなってよく見ると、不幸中の幸いかウミ鵜にかかったルアーの針は、くちばしではなく足にかかっていることが分かった。助けようとする人間とその意に反し本能むき出しの必死の抵抗を続けるウミ鵜。ど干潮から2時間ほどの堤防周りのテトラはフジツボやカメの手のギザギザでラインが切れる恐れがあったが、手許にある道具でできるだけのことをやるしかない。若者がウミ鵜をうまく引き寄せられても果たしてテトラの先までタモ網が届くのか。

何と奇跡である。若者と筆者の連携プレイでウミ鵜をタモ網に取込み、と言うかルアーのフックがタモ網に引っかかり、ウミ鵜はほとんどぶら下がった状態だったが、とにかく堤防上への引き上げに成功したのだ。

その後はあっと言う間。ウミ鵜がくちばしで噛みつこうとするので足から針を外せない。筆者がタモ網をウミ鵜の上半身に被せ、網の上からウミ鵜の胴体を押さえる。ここまで抵抗を続けたウミ鵜の濡れた体からびっしょり汗をかいたような温もりが伝わる。若者の連れがペンチでフックをゴリっとひねって抜き取り、筆者がウミ鵜をタモ網ごと抱えて海に向けて放す、ウミ鵜は羽を広げて無事海面に向かって着水。すぐに手足の動きを確かめるように数十メートル先まで海面すれすれを飛んで行った。

 

自分で言うのも何だが、見事な連携プレイだった。

 

若者たちは、感謝の言葉を残し笑顔で早々にその場を後にしていった。

 

1週間後、またウミ鵜が元気に堤防を遠巻きにダイブする姿が見られた。あれはあのウミ鵜だと思う。

最近、まだ年端の行かない小学低学年のお子さんにルアーをやらせる親子連れを見かけることも多くなった。親は危険であることをよく言い聞かせているのだとは思う。でも、もしも事故が起きたとすれば見るに堪えない事故かもしれないのである。